日本サッカーに抜け落ちた「ゴール前」の視点
「現役目線」――サッカー選手、岩政大樹が書き下ろす、サッカーの常識への挑戦
◆外国人選手は「ゴール前」で体をぶつけたがる
今に至るまでに、たくさんの素晴らしいフォワードの選手との対戦がありました。自陣ゴール前での強さにおいて、そうした選手との“一瞬”をめぐるゴール前の戦いは、僕を大きくしてくれました。89分完璧に抑えていても1回のプレーで立場は逆転します。優れたフォワードは常にその一瞬を逃すまいとしていました。
ワシントン選手(元浦和レッズ)をはじめとして、ケネディ選手(元名古屋グランパス)、ヨンセン選手(元清水エスパルス)といった大柄で経験豊富な外国人ストライカーとの対戦では、体の当て方を考えさせられました。鹿島に入って試合に出始めた頃、大岩剛選手(現鹿島コーチ)に「外国人選手に体を当ててはいけない」とよく言われていました。
彼らは日本人選手の多くと違い、少し体を当てたくらいでは全くぶれることがありません。そればかりか、それを利用してターンをしたり、キープをしたりするのが非常にうまいのです。つまり、体を密着させることは、彼らに僕の位置や意思を感じ取らせてしまい、逆に彼らにプレーしやすくさせてしまうのです。
それから僕は、彼らにいろんな方法で何度も挑みながら顔色をうかがい、どのタイミングで体を当てるべきかを学んでいきました。
日本人では、僕と同い年で、いまもお互い現役を続ける二人の偉大なストライカーとの対戦も、思い出深いものがあります。佐藤寿人選手と前田遼一選手です。
10年にわたってマッチアップしてきた彼らの特徴もやはりゴール前での強さです。ただ、彼らの“強さ”とは、外国人ストライカーのそれとは違います。
動き出しのタイミング、ポジショニング。よくサッカーの世界で「消える動き」と言われますが、ディフェンダーの目線の動きを分析した上で、論理的にマークを外しています。以前書いたように、まさに“相手を知っている”選手です。
佐藤選手はとてもすばしっこいので、大柄な僕は「苦手なタイプでしょ?」と聞かれたりしますが、僕の中で苦手というわけではありませんでした。なぜならばゴール前、動き出しのタイミング、ポジショニングというのは僕も同じようにこだわってきた部分で、狙っていることは全てと言っていいほどバッティングするものだったからです。
だから、彼らとの対戦はお互いがお互いを分かった上での、本当の一瞬を争うものでした。